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BSP(ブレインスポッティング)

ブレインスポッティングは、とても不思議な心理療法です。2003年にアメリカのデイビッド・グランド博士が偶然発見したトラウマ療法で、視野の一点をずっと見続けるだけで、トラウマ記憶の処理が行われるものです。

私の相談室に来てくれたクライエントのAさんは、嫌がらせにあい会社を辞めたのですが、その後も不快な記憶に苦しんでいました。今回、Aさんはブレインスポッティングを受けてその様子を録音(Aさんのご希望で記録)し、一部修正後公開することを快くご承諾いただきました。ブレインスポッティングの説明の後、指示棒を動かしてポイント(インサイドウインドウ)を見つけるところからご紹介します。

 

関根「ではそのことを漠然と思いながらですね、目を動かしてもらいます。ここを見ててくださいね。」

Aさん「はい」

関根「ここからずーっと動かしていくので、そこっていうところで、何故かお分かりになるようですので、『そこです!』って言ってください。止めますからね」

Aさん「はい…もうちょっと上…この辺ですね。」

関根「そうですか!じゃここをずっと見続けてください。そしてね、自分の中でどういうことが起こってきてどんなふうに変わったとかあったら教えて下さいね」

(25秒後)

Aさん「強くなるどころか思い出す度に光景が全然…どういう光景があったかって明確に覚えていたんですが…プリンターがあそこにあって電話が…」

関根「映像が見えないこともあるんですよ。どこか痛くなったりとか痒くなったりとか苦しくなったりとかってこともあるんで…」

・・・

Aさん「確かに変化があるってのはわかります。」

関根「は~…どんなふうに変化がありますか?」

Aさん「私の場合は体調不良と言うよりは…視界が立ちくらみに近い感じになったり、このへん(視界の左側)がなんか、飛蚊症みたいな感じで蚊みたいなのが…」

関根「あ!見える?」

Aさん「見えるっていうのが」

関根「なるほど…そのまま見続けてくださいね。」

Aさん「はい」

(27秒後)

Aさん「見えるっていうか…逆にその先以外が見えないです。」

関根「そういうふうにおっしゃる方もいるんですよね。」

(26秒後)

Aさん「そうですね、今一瞬トラウマの状況を思い浮かべようしても、状況事態はなんとなく思い浮かぶんですけども、人の名前が誰一人出てこないです。」

・・・

Aさん「思い出そうとすると…できないか…」

関根「思い出せなくても…いいかも」

Aさん「忘れていくっていうのとはニュアンスがちょっと違うんですが、」

関根「そうですよね」

Aさん「集中してるっていうのもあって、こう…思いせなくなる、思い出すだけのリソースがないって言ったほうがいいですかね」

関根「ちょっと遠くなるって感じですか?」

Aさん「はい」

(25秒後)

Aさん「だいたい、今始めてどれぐらい経ったのかわからないですけれど…他のことが出てきます。全然関係ない。」

関根「ええ、どんなことが?」

Aさん「今は自分の部屋の状況ですね。」

関根「うーん、見える?」

Aさん「トラウマじゃないんですけど、単純に思い出してくる。イメージとしては集中力が途切れた時に、全然違うことがパッと思い浮かんじゃう。で、光景自体は後になって思い出せるんですけど、具体的な内容についてこう…少しずつ忘れていく」

(30秒後)

Aさん「これすごい勢いで忘れていきますね。」

関根「え?」

Aさん「今…1分…時計見てないんでわからないんですけど…会社の名前出すのに時間がかかりました。」

関根「はぁー」

Aさん「トラウマがなくなるっていうよりは、その光景を思い出しにくくなる。そんな感じでしょうか。トラウマに関連する。今回だと会社ごと忘れていく。そういう感じでしょうか?」

関根「場所、ここでいいんですかね?」

Aさん「ああ、ずれたかもしれないですね。でも集中してたら…(光景が)変わらないんですよね。ちょっとずれても」

関根「ああ。そうなんだ」

Aさん「だいぶ…視界は戻ってきましたね」

関根「そうですね。ゼロになるまで。さっき(辛さが10点満点で)3~4とか言ってたから。0になるまで見てください」

(15秒後)

Aさん「・・・確かに消えるっていうよりは、辛かったというより『ああ、そんなことあったね』ぐらいにまでには下がりましたね。」

関根「ああーなるほどね。記憶がまったくなくなるものではないんですよ、これは」

Aさん「いまだと、大体その光景とかも思い出せるんですけど、なんというんでしょう。そんなことありましたねって。思い出す度に衝撃的なことがあったはずなんですけど」

関根「辛さみたいなのが・・・」

Aさん「驚きもなんも…なくなるといいますか。記憶は確かにあるんですけどそれを思い出したからといってどういうわけでもない」

関根「アーってなることもない?」

Aさん「ないですね。確かに辛さとしてはガッツリ下がったのは体感としてあります」

関根「0になってますか?」

Aさん「辛さでいえば0ですね。」

 

ブレインスポッティングを始めて20分ほどでしたが、トラウマの処理はほとんど終わったようでした。